悪童日記、ふたりの証拠、第三の嘘(アゴタ・クリストフ)を読んだ感想

この記事を書いたひと: @t4traw 2019年11月13日

※この記事はネタバレを含みますのでご注意ください

ぼくは大した量の本を読んでいないのだけど、その中でもぶっちぎりでおもしろい……というより異色の本がある。それが『悪童日記』です。

戦争が激しさを増し、双子の「ぼくら」は、小さな町に住むおばあちゃんのもとへ疎開した。その日から、ぼくらの過酷な日々が始まった。人間の醜さや哀しさ、世の不条理―非情な現実を目にするたびに、ぼくらはそれを克明に日記にしるす。戦争が暗い影を落とすなか、ぼくらはしたたかに生き抜いていく。人間の真実をえぐる圧倒的筆力で読書界に感動の嵐を巻き起こした、ハンガリー生まれの女性亡命作家の衝撃の処女作。 悪童日記 (ハヤカワepi文庫) | アゴタ クリストフ, Agota Kristof, 堀 茂樹 |本 | 通販 | Amazon

悪童日記、ふたりの証拠、第三の嘘は第二次世界大戦から冷戦時のハンガリー(ブダペストとケーセグ)を舞台にした小説です。兵士ではなく、戦時下の一般市民視点の物語です。

日記スタイルで一章一章が短く簡潔なのですが、「庭で待っていなさい」と母親に言われてもまったく気にする事なく盗み聞きしたり、過酷な状況を生き抜くために双子で痛めつけあって精神・肉体ともに鍛えるといった、オブラートに包まず言うとちょっとおかしいヤツの日記を覗き見るとでもいいましょうか。非常に独特な読み味の本です。

しかも、この日記には「真実しか書いてはいけない」というルールが決められています。

「良」か「不可」かを判断する基準として、ぼくらには、きわめて単純なルールがある。作文の内容は真実でなければならない、というルールだ。ぼくらが記述するのは、あるがままの事物、ぼくらが見たこと、ぼくらが聞いたこと、ぼくらが実行したこと、でなければならない。たとえば、「おばあちゃんは魔女に似ている」と書くことは禁じられている。しかし、「おばあちゃんは『魔女』と呼ばれている」と書くことは許されている。

最近話題の「事実と意見を区別して話す」的な感じですが、このルール(書法)が、のちのち読み手の考察・熟思を生むトリックになっているのです。

また、少々ネタバレになりますが、この本はさまざまな理不尽な暴力や迫害について書かれています。第二次世界大戦のヨーロッパなので、ホロコーストに関して書かれています。読み終わった後、今一度ユダヤ人(そしてユダヤ教に限らず宗教)について勉強しています。

ハンガリーの北西部の街ケーセグの駅で移送を待つユダヤ人の女性、子供と高齢者。

ふたりの証拠、第三の嘘

ここから本格的にネタバレを含みます。

悪童日記では、主人公である双子の名前が明かされませんでしたが、ふたりの証拠・第三の嘘ではクラウスとリュカという名前が明かされます。

この第二部と第三部は、第一部の悪童日記と違っていわゆる小説になっています。第二部で「んんん??」となり、第三部はある意味きれいに落ちます。

ふたりの証拠を最初に読んだ時は、「なんだか人間味はあるけど、けっこう気が滅入る話だなぁ」と思っていました。というのも、障害者に関する話がかなり多く、最後はかなり衝撃的な展開だからです。

しかし、第三の嘘を読み終わったあと、あぁこの障害者は愛に飢えたリュカ自身なのだなと理解しました。

リュカは西側に亡命した身なので、第三の嘘で執筆している感じからみても、基本的には架空の話だと思います。時系列が前後していいならふたりの証拠の後に亡命した可能性もありますが。

体験記的な感じで書かれているとしたら、実際にマティアスを育てていたのか、また育てていたとしてマティアスが障害者だったのかは分かりません。

ただ、作品(もしくはテーマ)というのは、自ら経験したことをベースに作られるという事を、作者のアゴタ・クリストフ自身がまさにこの本で証明しています

ふたりの証拠のラストに関しては、第三の嘘の最後でクラウスに続きを書かせた結果なんだなと、ぼくは思いました。もちろん、その辺りは明確にはされていませんが。

第三の証拠の冒頭でも書かれている通り、凄惨な出来事も嘘(美化)で包んでしまう。おそらくリュカは体に障害をかかえたまま、ずっと孤独に愛を探していたのだと思います。そして最後の「両親の傍らに埋めてほしい」という言葉の重みにしばらく押しつぶされてしまいそうでした。


この本を読んで、一度行ってみたい国にハンガリーが加わりました。

『悪童日記』の街ケーセグの朝食 オーストリア、ハンガリー国境を訪ねて | 朝日新聞デジタル&TRAVEL(アンド・トラベル)

今も鉄のカーテンだったオーストリアとハンガリーの国境が残されているようです。

それでは。